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雨は これからを語る

雨は これからを語る

『キリン』で知られる東本昌平が描く『雨は これから』は、スピードや勝負の世界とは少し距離を置いた、大人のためのバイク漫画だ。ここにあるのは、日常の中に溶け込むバイクと、それを愛する人々の静かな人生模様である。

派手なバトルや劇的な勝利はないが、読めば読むほど味わい深い、そんなスルメのような魅力を持つ本作について紹介しよう。

「雨は これから」のあらすじ

本作には明確な主人公や、世界を救うような大きなストーリーラインというものは存在しない。ある街のダイナーを拠点に、そこへ集うバイク乗りたちの日常や、ふとした瞬間に交錯する人間ドラマがオムニバス形式で描かれる。

登場人物たちは皆、年齢を重ね、仕事や家庭、健康、あるいは過去の古傷など、様々な悩みを抱えながら生きている。それでも彼らは、バイクに乗ることだけはやめられない。雨宿りをするようにダイナーで束の間の休息を取り、マスターの淹れるコーヒーを飲み、またそれぞれの人生という名の道を走り出していく。

そんな彼らの姿を淡々と、しかし優しく描いた作品だ。「バイク降りないの?」「まだ乗ってんの?」そんな世間の声に対して、言葉ではなく背中で答える大人たちの物語。ここには、ただ好きだから乗り続けるという、シンプルだが奥深いバイク乗りの本質が描かれている。

「雨は これから」の魅力

この作品の魅力は、全編に漂う哀愁と、東本昌平ならではの圧倒的な画力による空気感だろう。雨の匂い、コーヒーの湯気、タバコの煙、そして冷えた身体を温めるエンジンの熱気までもが、紙面を通して伝わってくるような描写は圧巻だ。過剰な効果音や説明的なセリフで多くを語るのではなく、濡れた路面の反射やバイクの佇まい、そしてキャラクターの何気ない表情で心情を語る演出は、大人の読者の心に染み入る。

若い頃のような無茶はもうできないし、速さを競うことにも意味を見出せない。それでもエンジンに火を入れる瞬間の高揚感だけは変わらない。そんな「走ること」の意味を改めて問い直すような、静かで哲学的な時間が流れているのが本作の最大の特徴だ。

読み終えた後、ふと自分の愛車に会いたくなるような、ガレージで一人酒を飲みたくなるような、そんな余韻を残してくれる稀有な漫画である。

「雨は これから」に登場してくるバイク

登場するバイクは多種多様だが、やはり東本作品らしく、空冷の大型バイクや往年の名車が多く描かれる。カワサキのZシリーズやマッハ、ハーレーダビッドソン、BMW、そしてカタナなど、乗り手とともに年輪を重ねたバイクたちが、まるで生きているかのような存在感を放っている。ピカピカのショールームコンディションの新車ではなく、使い込まれた塗装のハゲや、オイルの滲み、カスタムの遍歴までが詳細に描かれているのが印象的だ。

それぞれのバイクにはオーナーの人生が投影されており、マシンの傷一つ一つに物語があるように感じられる。メカニカルな美しさはもちろんだが、本作では「人とバイクの関係性」そのものが描かれていると言っていいだろう。

古いバイクを維持することの苦労や、それでも手放せない愛着など、旧車乗りなら思わず頷いてしまう描写も多い。バイク単体の絵を見ているだけでも、時間を忘れて楽しめるほどの密度と熱量がそこにはある。