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走り屋の聖地だった大垂水峠

走り屋の聖地「大垂水峠」

バイクや車をとにかく速く走らせることに情熱をそそぐ人たちが「走り屋」だ。
法が厳しくなったこともあり、走り屋といっても今は健全に楽しむ人たちのみが残っている状況だが、かつては日本全国のさまざまな地で走り屋たちが最速を目指して日夜奮闘していた。
そんな走り屋たちは、公道でよければどこでも走りのコースにしていた訳ではない。
交通量の少ない時間帯を調べ上げたり、走るにしても景色がいい所を選んだり、ドリフトなどのテクニックが強く要求される峠道にチャレンジしてみたりなど走り屋たちにとって魅力を感じる場所がコースとして選ばれていたのだ。

中でも、関東の走り屋たちの間で関東最大の走り屋の聖地とも言われていた場所が、東京都の八王子市と神奈川県相模原市の境に位置する峠「大垂水峠(おおたるみとうげ)」である。
大垂水峠のピーク標高は392m、そこに至るまで幾多のカーブを上っていき速さを競う。
コーナリングが綺麗に決まればその分タイムロスも少なくて済むため、いかに早いスピードで無駄なく曲がり切ることができるか、ドリフト好きの走り屋にとってはまさに自分の腕を試すうってつけの場所だった。

走り屋ブーム全盛期の80年代は、特に土曜夜から日曜にかけて走り屋とギャラリーたちが大勢押し寄せていた。
当然取り締まりも強化されており、峠の出口では警察が待機していたり白バイによる警らも頻繁に行われていたのだ。
こうしたリスクを背負いながらも大垂水峠に挑んでいたのは、走り屋として何より燃える部分があったからだろう。

実際、大垂水峠での走りに熱くなっていた人たちの中からF1ライダーも誕生している。
また、ロードレースを題材にした漫画「バリバリ伝説」の舞台のモデルに大垂水峠が選ばれたこともあり、当時の人気は加速していた。
この人気から、全盛期はまさにお祭り状態のような賑わいで大垂水峠は注目されていたのだ。

現在の大垂水峠

現在の大垂水峠では、ライダーこそ多く見かけるもののみなスピードを出して駆け抜けてはおらず、あくまで法定速度を遵守して楽しんでいる人が多い。
走り屋ブームの時に事故が多発したこともあって、警察が取り締まりを強化するとともにカーブに赤い段差の舗装を施していた。
これによってスピードを出して走ることが難しくなったため、走り屋たちからしても峠を攻めるモチベーションの低下につながったのだろう。

しかし、それでもライダー達が訪れてみたいスポットとしては有名で、路肩にはライダーズカフェもオープンしている。
全盛期を思えば寂しくはなっているものの、当時の熱がまだ残っている人たちが健全な形でバイク愛を伝え続けている場所になっているのは、とても魅力的だ。