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キリン POINT OF NO-RETURNを語る

キリン POINT OF NO-RETURNを語る

バイク漫画の金字塔は?と聞かれたら、このタイトルを挙げる人も多いんじゃないだろうか。『キリン POINT OF NO-RETURN』。若いうちには共感できないが、若さのままにバイクを走らせる気概が失われている、若いころのようにはいかないといった感覚にとらわれたことがあるライダーにとって、救いに近い漫画といえるかもしれない。

キリン POINT OF NO-RETURNのあらすじ

主人公は『キリン』と名乗る38歳の男性。もう十分に分別を持ち合わせているはずのオジサンが、十代の頃のように闘志を持ってポルシェと公道レースに挑む物語だ。

「まるで十代のガキのように 俺の中のディフェンスたちがオフェンスへと走りたがる!」

去り行く時代に囚われて、新しい時代に追い抜かれ、それでも立ち向かう生き様を見せつける。

そんなキリンの相棒は、GSX-Rやニンジャといった水冷エンジンを搭載する最速で新興のバイクじゃありえない。空冷エンジンで確かに時代の寵児として名を馳せたあのマシン……もう最速の座を譲っているが、おれならGSX-Rやニンジャを抜けるかもしれない、手が届くかもしれない……そう希望を持たせてくれるマシン、1100カタナこそふさわしい。

「そうさ、俺は気も狂わんばかりに嫉妬していたのさ」

要するに、完全に老いてしまう前に、過去の因縁と決着を付けに行こうとする話だ。手が届きそうだが、結局は”届かない”。

キリンはちょっと誤解されることもあるが、別に旧式のバイクで喧嘩を売ってやるのクールでカッコイイ~!みたいなノリじゃない。ただ、そこんところは(メディアの煽りもあってか)誤解されちゃったかもしれない。

なぜ「キリン」なのか?

タイトルが「キリン」と名付けられている理由は、読んでいるうちに徐々に明らかになっていく。

作中ではバイクをキリン(草食動物)に例え、車をライオン(肉食動物)に例える。キリンは我が子をライオンに食べられても、悲しいはずなのにじっと見ているだけだと。でも、「食われようとも立ち向かうキリンになりたい」と言う。たとえ草食動物であっても、肉食動物に立ち向かっていきたい。そういうバイク乗りのプライドが垣間見える。

『キリン』は、分かりやすいストーリーがあるわけでも、若々しいエネルギーに満ち溢れているわけでもない。行ってしまえば38歳の主人公が、ポルシェを相手に公道レースをする話であって、いい大人が捨てきれなかった、常軌を逸した情熱を描いている。

歳を重ねれば重ねるほど、共感が深くなっていく。『バリバリ伝説』や『あいつとララバイ』を読み返すときに感じるきらめきがだんだんまぶしくなっていくのに、『キリン』はそういう失った日々の追憶を感じさせない、どれだけ歳を重ねても”共感”させてくれる。まさに「バイク乗りのためのバイブル」と呼ばれるのもうなずける。